静かな夜が訪れない理由
ダイエットもした。お酒も控えた。鼻腔拡張テープも貼った。 それでも翌朝、妻(夫)から「昨日もうるさかった」と言われ、申し訳なさで小さくなる。努力がたりないのかも…。
そんな経験はありませんか?
結論から言います。 あなたのいびきが治らないのは、努力不足のせいではありません。
そもそも、人間の喉(のど)が「欠陥構造」だからです。
サルは歌えないが、いびきもかかない
実は、チンパンジーや猿は、基本的にいびきをかかないといわれています。 彼らの喉は、仰向けで寝ても気道が潰れないよう、骨格的に非常に頑丈に守られているからです。

では、なぜ人間だけが毎晩窒息しそうになる(いびきをかく)のでしょうか? それは、数万年前に私たちの遺伝子に起きた「偶然のエラー(変異)」が、そのまま定着してしまったからです。
そのエラーがもたらした予期せぬ副産物こそが、「言葉」でした。
生存のための「悪魔の契約」
約20万年前、ヒトのDNAに偶然の変異が起き、私たちは複雑な音を操る能力を手に入れました。いや、「その変異を起こした人間だけが、過酷な世界で生き残ることができた」と言うほうが正しいのでしょう。
その能力こそが、「言葉」です。
言葉を得た集団だけが、猛獣の接近を叫んで仲間に知らせ、連携することで生き延びました。 しかし、その代償として、私たちの喉仏(のどぼとけ)の位置は劇的に下がってしまいました。
これにより、喉の奥に広い「空洞(スペース)」が生まれ、複雑な発音が可能になりましたが、同時に「骨のない柔らかい壁」を作ってしまったのです。
その結果、仰向けで寝ると、重力に負けた舌や肉がその空洞に落ち込み、いとも簡単に気道を塞いでしまう体になってしまいました。
つまり、いびきとは不摂生の証ではなく、厳しい生存競争を勝ち抜いた人類だけが背負う「勝利の代償(進化税)」なのです。
「構造上の欠陥」は「物理」で支えるしかない
原因が「気合」や「筋肉のたるみ」ではなく、「進化が生んだ構造上の欠陥」にあるなら、精神論では太刀打ちできません。
構造的に弱い部分を、物理的に補強する必要があります。 進化医学的に理にかなった対策は、以下の2つだけです。
- 重力を分散する(横向き寝など) 仰向けで寝れば、重力で舌は必ず落ち込みます。これは物理法則です。
- 顎(あご)を「気道確保」のポジションに保つ 救急救命の現場では、呼吸を確保するために「顎を持ち上げる」処置をします。睡眠中もこれと同じ状態を作らなければなりません。
もし、あなたの今の枕や布団が柔らかすぎて、頭や腰がズブズブと沈み込んでいるなら、それは自ら気道を塞ぐ手助けをしているのと同じです。
道具に頼るのは「甘え」ではない
私は、対策として椅子寝をしているのですが、寝具に関しては「沈み込まない高反発のもの」が良いと考えています。
それは「寝心地が良いから」ではありません。 進化の過程で弱くなってしまった現代人の顎と気道を、一晩中物理的に支え続ける「土台」が必要だからです。
欠陥のある家には、補強工事が必要です。 同じように、欠陥のある人間の喉には、それを支えるための「正しい寝具」という補強材が不可欠なのです。
「板の上で寝ろ」と言っているわけではありません
「沈み込まない」というのは、カチカチの床で寝ることではありません。 必要なのは「反発力」です。
想像してみてください。 泥沼の上を歩くと足がズブズブ沈んで疲れますよね?(これが低反発) でも、トランポリンの上なら、ポンと跳ね返してくれます。(これが高反発)
私たちが求めているのは、重力で沈もうとする「重たい頭と舌」を、下から押し返して「空中に留まらせてくれる力」です。 この「押し返す力」がないと、あなたの気道は夜通し潰され続けることになります。
今夜すぐできる気道確保実験
いきなり寝具を買い換える必要はありません。まずは私の言っていることが本当か、今夜試してみてください。
用意するのは「硬く折り畳んだバスタオル」です。
これを枕代わりにして、少し「硬すぎるかな?」と思うくらいの高さと硬さで寝てみてください。 フワフワの枕に慣れた感覚だと、最初は違和感があるでしょう。 しかし、翌朝の喉の調子や、家族からの「いびき報告」を確認してください。
「あれ? 意外とスッキリしている」 そう感じたら、あなたの体は今まで、柔らかい枕の中で溺れていた証拠です。
私たちが選べる「唯一の解決策」
残念ながら、私たちはサルには戻れません。 明日からも言葉を話し、プレゼンをし、家族と語り合うために、この「欠陥だらけの喉」と付き合っていくしかありません。
構造を変えられないなら、変えられるのは「環境」だけです。
私が「沈み込まない寝具」にこだわる理由は、贅沢がしたいからではありません。 重力に負けて塞がろうとする自分の気道を、一晩中物理的に支え続ける「補強パーツ」が必要だからです。
それは、単なる布団というより、人間が背負った「進化のバグ」を修正するためのパッチ(修正プログラム)のようなものです。
罪悪感は捨てて、物理で解決しよう
いびきをかいてしまう自分を、もう責めないでください。 それはあなたが怠惰だからではなく、あなたが人間として進化しすぎた結果なのですから。
ただ、その「進化の代償」を家族に払わせたり、自分の健康を削って払う必要はありません。 精神論ではなく、正しい道具(寝具)を使って、物理的に解決しましょう。
静かな夜と、深い呼吸を取り戻すための投資。 これ以上に「理にかなったお金の使い方」はないはずです。
そして、まずは今夜、ご自宅にあるバスタオルを硬めに折りたたんで枕にし、「沈まない感覚」だけでも試してみてください。 それだけで、あなたの喉は驚くほど楽になるはずです。

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