はじめに
「眠れない夜は、羊を数えるより、退屈な本を読め」 これは睡眠における定説ですが、分析屋として疑問があります。
「具体的に、どの本が最強なのか?」
中途半端に面白い本では、かえって脳が覚醒してしまいます。 必要なのは、脳が処理を拒絶するほど「難解」で、かつ感情を揺さぶらない「無機質」な情報の羅列です。
そこで今回、私の本棚にある「劇薬級の3冊」を使用し、「入眠までの時間(タイム)」を計測する実験を行いました。
ルールは一つだけ。 「この本を読み切るまで、絶対に寝てはいけない」 そう自分に言い聞かせ、睡魔といかに戦えるかを検証します。
以下は、その敗北(=快眠)の記録です。
検体A:『速読英単語 必修編(Z会)』
- 実験目的: 解読困難な「英語長文」による脳の拒絶反応測定
- 選定理由: 単なる単語リストではありません。あえて「長文」が掲載されている本書を選びました。 我々日本人にとって、英語の長文は「読む」ものではなく、「脳に負荷をかける壁」です。
【実験経過】 ベッドに入り、「英文ページ」だけをひたすら目で追います。
※重要:右ページの「日本語訳」は絶対に見てはいけません(見ると内容が分かってしまい、目が冴えるため)。
- 開始10秒: A good understanding of
...と読み始めますが、関係詞が出てきたあたりで思考が停止します。 - 開始2分: 白い紙に黒と赤の文字が並んでいるだけの「画像」として認識され始めます。
- 開始5分: 内容を理解しようとする努力と、拒絶する脳との間で綱引きが行われ、急激に血流が下がっていくのを感じます。
【結果】 記録:8分で(おそらく)入眠(KO)
【考察】 単純な単語帳もいいですが、「速単」の「英語の長文を読まされている」というプレッシャーは別格です。 かつて学生時代、英語の授業中に突如として意識を失ったあの感覚。あれを意図的に再現できる、非常に優秀な睡眠導入剤です。
▼脳がオーバーヒートして眠れる、高品質な英語長文
速読英単語 必修編[改訂第8版] [ 風早 寛 ]
検体B:『Excel 応用 セミナーテキスト(日経BP)』
- 実験目的: 「操作できないマニュアル本」を読む苦痛による入眠実験
- 選定理由: あえて「応用編」を選ぶのがポイントです。 さらに、バージョン(年式)は何でも構いません。重要なのは「手順の羅列」であることです。
【実験経過】 ベッドの中で、PCを持たずに、ひたすら「ピボットテーブルの作成手順」を目で追います。
- 開始1分: 「[挿入]タブをクリックし…」という記述を読みますが、手元にマウスがないため、脳が「この情報の処理は無意味だ」と判断します。
- 開始3分: 実際の操作画面のスクリーンショットを見ているうちに、薄暗い会議室で延々とプロジェクターを見せられているような、抗えない眠気に襲われます。
【結果】 記録:5分で(おそらく)入眠(KO)
【考察】 辞書以上に「無味乾燥」です。 本来はスキルアップのための良書ですが、「PCなしで読む」という縛りプレイにおいては、最強の睡眠薬へと変貌します。感情の入り込む余地が1ミリもない点が勝因でしょう。
▼仕事ができるようになるか、寝落ちするか。どちらにせよ有益な一冊
Excel 2024 応用 セミナーテキスト [ 株式会社日経BP ]
検体C(ラスボス):『民法講義(我妻榮 著)』
- 実験目的: 圧倒的な「法的論理」による脳内メモリのショート誘発
- 選定理由: 条文だけが載っている「六法」ではありません。 日本民法学の泰闘、我妻榮先生による歴史的ド定番の「基本書(体系書)」を使用します。実を言うと、私は民法が不得意ではありません。 「普通の本なら、興奮して朝まで読んでしまうはず」……そう思っていました。
【実験経過】 あえて一番ややこしい「担保物権」や「債権総論」を選びます。
- 開始10秒: 「〜と解する」という格調高い文体。ここまでは心地よいリズムです。
- 開始1分: しかし、展開される論理があまりにも「濃密」すぎます。 1行に含まれる情報量が多すぎて、咀嚼しようとフル回転した脳が熱を持ち始めます。
- 開始2分: 得意な私でさえ、その圧倒的な「知の暴力」の前では無力でした。 理解できる。理解できるがゆえに、脳のCPU使用率が100%に張り付き、安全装置が作動(強制シャットダウン)しました。
【結果】 記録:3分で(おそらく)入眠(完敗)
【考察】 これは、ただの「退屈な本」ではありません。 民法好きの私ですら3分で気絶させる、「超濃厚豚骨スープ」のような本です。 素人が読んだらどうなるか? おそらく、ページを開いた瞬間に「文字の圧」だけで気絶できるでしょう。不眠に悩む全ての人への最終兵器です。
▼枕の高さを調節するのにも使える、教養と睡眠の鈍器
民法2 債権法 第4版 [ 我妻 榮 ]
検証結果:寝ようとしない方が、眠れる
実験の結果、私は「3冊合計しても20分も経たずに気絶する」という結果になりました。
心理学には「逆説的志向」という言葉があります。 「眠ろう」と焦るのではなく、「この難解な本を理解してやるぞ(寝てはいけない)」と脳に負荷をかけることで、防衛本能として強力な眠気が訪れるのです。
もしあなたが今夜眠れないなら、スマホを置いて、これらの「絶対に眠ってはいけない本」を開いてみてください。
大丈夫。絶対に負けます(眠れます)から。 万が一、眠れずに読み切ってしまったとしても、その時は「英語力」か「PCスキル」か「法的思考力」が身についています。 どちらに転んでも、あなたの勝ちです。


コメント